展示会見学はぼくの趣味の一つです。
今回は、nanotech2019 を見学してきました。
展示会概要
会場:東京ビッグサイト
期間:2019年1月30日~2月1日
同時開催:先進印刷技術展2019、新機能性材料展、Convertech japan 2019など
どんな展示会?
ナノレベルの材料、技術シーズを扱っている展示会です。
ナノっていうのは、nm(ナノメートル)と書くんですが、サイズは髪の毛1本の1万~2万分の1の細さと書くとイメージしやすいでしょうか?
他によく使われる例えでは、
地球の直径サイズを1mとすると、1nmは1円玉くらいのスケール差ですよ。
というのがありますが、
『目で見ることはできない。顕微鏡を使ったって見えないくらい小さいサイズ』
と思っていただけばいいかなと思います。
実際に、200nmくらいの厚さまでならば、素材の表面に処理をしても色は変わらないですし、手触りもよほどなれた人でない限り何かが表面にあるとは気づきません。
でも、そんな厚さでも、電気をよく通すようになったり、逆に絶縁したり、水をよく弾くようになったりするんです。
ナノレベルの処理って面白いんですよ。
とはいえ、ナノレベルの材料は、生活を便利にするものがたくさん存在する一方で、アメリカでは銀ナノ粒子が土壌や河川の有益な最近まで殺しているのが確認され、洗剤などに使用するのが禁止されるなど、まだ現在進行形で研究が進んでいる分野です。
植物の中に眠っていたすごい繊維ナノファイバー
ものすごく短略的に話しますと、世の中にありふれた素材でもナノレベルのサイズにした途端、ものすごい効果を発揮するものがあるんですよ。
セルロースも、そんな素材の一つです。
セルロースというと、植物繊維の主成分ですが、わかりやすい身の回りのものだとティッシュペーパーがほぐれた繊維がそうですね。
ティッシュというと、水がものすごく染み込みますよね?
そんなセルロース繊維も、髪の毛の1万分の1以下のサイズまで細かくすると、逆に水を弾くようになったり、強度の高い素材になったりするんです。
今回の展示会でも、ナノファイバーのコーナーは比較的大きかったです。
なぜかというと、セルロースナノファイバーを樹脂と合わせると金属よりも軽くて剛性の高い素材になるからなんです。
現在でも東レのカーボンナノファイバーを使った素材が航空機の材料に採用されていますが、セルロースもカーボンと同じように使えそうなんですね。
しかも、セルロースは植物から取り出せるので、紙を作るのと同じように木を育てて、そこから生産すればいいんです。
でも、セルロースナノファイバーは植物の細胞壁をぶっ壊さないと取り出せないので、これまで量産方法が難しいのが悩みの種でした。
ただ、数年前から機械的な処理で比較的簡単に、かつ薬品などをほとんど使わない環境に優しい方法で取り出せる方法が開発されだしていたんです。
今回の展示会を見た限り、量産技術は大幅に進歩したようでした。
ちなみに、セルロースナノファイバーの変わった利用方法として、ソフトクリームがあります。
ソフトクリームにセルロースナノファイバーを混ぜると、溶けにくくなるんです。
普通は、数分経たないうちにコーンをクリームがタラタラと滴り落ち出しますよね?
これに対して、セルロースナノファイバーを混ぜたソフトクリームは5分くらいは形を止めていられるんですよ。
しかも植物由来の素材だから、食べても大丈夫。
と言われています。
本当に面白い素材です。
セルロース以外でも、ナノファイバーを取り出す研究は進んでいます。
たとえば、エビの殻とかカニの甲羅。
どちらも身を取り出した後は廃棄物扱いですよね。
でも、その廃棄物からもナノファイバーが取り出せて、しかも医療分野で役に立つ素材になるとしたらどうですか?
捨てていたものから一転、キチンナノファイバーという宝物に大変身です。
ちなみに、以前目にした効果では、キチンナノファイバーを混ぜた薬で火傷の治癒が早くなったという研究成果がありました。
さて、ナノファイバーについては明るい兆しが見えますが、それ以外のナノ素材はどうなのでしょうか?
ナノマテリアルの研究者からは反対されそうですが、ぼくのみた感触ではニーズまで行きつけるような方向性が見えない、モヤモヤとした状態のものが多い印象です。
銀ナノ粒子について先述しましたが、銀には昔から理由はわからないけど抗菌効果があるのは確認されていたので、トイレなどにも使われてきました。
その流れで、銀ナノ粒子にも抗菌効果が期待できるのは予測ができていたのだと思うのですが、いざナノ粒子にまで細かくしたら予想以上に強力な抗菌効果が発揮されたんですね。
でも、「こいつはいける!」と思って食卓周りや洗剤、消臭などに使いまくっていたら、人が生きていく上で大切な菌まで殺していることに気づいたんです。
土から有用な菌がいなくなれば、植物が育たなくなります。
水から有用な菌がいなくなれば、腐敗したり魚が住めなくなったりします。
人の体内に残ったら、どんなことが起こるのか?
まだまだはっきりとしたことはわかりませんが、素材によってはトラブルが起きる前に規制されるのは当然ですよね。
そういうことを実際に目撃して、銀ナノ粒子は規制を含めて適切な使い方を考えるきっかけになりました。
でも、逆に考えると、たくさん使われたから素材の効果がはっきりと見えたんですよね。
展示会場にも、おそらく何百種類というナノ素材が並んでいたと思うのですが、それぞれの素材の真価がわかるまで市場で使うことができるのか?
というと、銀ナノ粒子のことで規制ルールができたこともあり、商品化して効果を計るということが簡単にはできなくなりました。
もちろん、ナノレベルというのは素材だけではなく、フィルム上にナノレベルの凹凸とかパターンを作り出して、超はっ水や超親水にする、反射防止機能をつける、なんていうことも含まれます。
微細構造ナノドットアレイ | 主な新技術・新素材のご紹介 | 研究開発・技術 | 王子ホールディングス
でも、そんなナノレベルのパターンを印刷したり、加工するのだって、たとえばそんなフィルムを使って傘を作ったら1本1万円になってしまうくらい高い素材になるんですよ。
そういう素材は、開発者には「すごい!」とうなりたくなる魅力的なものなのですが、一般人が「めちゃくちゃ便利やん!」と思うようなものかというと・・・「?」なんですよね。
だから、
『面白くてもシーズとニーズがなかなかマッチしないのがナノテクノロジーを駆使した素材の世界』
というのがぼくの見解なんです。
用途がなかなか見つからない理由
蛇足ですが、研究段階で用途が予測されていたにも関わらず、いざ産業界での利用を考え始めると用途の方向性がぼんやりしてしまうのはなぜか?
というと、ぼくも経験がありますが、開発が進むうちに想像していなかった機能が発見できたり、逆に想像していたほどの効果が得られなかったりすることがあるんです。
でも、長所と短所は利用する場所世によっては立場が逆転することがあるんですね。
たとえば、思ってもみなかった分野の企業から問い合わせがあったりすると、
「なんだ、この機能は意味がないと思っていたのに、以外とニーズがあるんだ。」
という感じで、ちょっとしたアハ体験がおきます。
実際問題として、世の中の役に立つ製品ができれば形はなんだって構わない、というのが開発者のホンネだったりします。
年初に立てた計画を愚直にまっすぐ進めるより、進んでいる途中に魅力的な道が見つかれば、そちらへも進もうとするのがいい開発者じゃないかな?と思うんですけどね。
とはいえ、技術革新が欲しいところが目の前にあふれていた一昔前とは違い、現代は生活を楽にするための技術が一通りそろっているので、多少の不便を感じたとしても生活するのにそれほどの苦労はともなわないですよね。
だから、傘の性能が既存のものより10%くらい軽くなるとか、乾くのが早くなるというレベルであれば、消費者の多くは5000円の傘よりコンビニで600円くらいのビニール傘を選ぶように、多少いいというレベルの新製品には手を出さないわけです。
そういうご時世に、研究者が『すばらしい!』と感じる技術シーズや材料が発見されても、ユーザーの欲求とのギャップがかなり大きくあることがほとんど。
ユーザーのどうしても欲しくなるレベルに追いつくには、相当高いハードルを越えなければならないんですよね。
Apple社をはじめとした企業の多くは今のところ、性能的に大した進歩がなくても巧みなコマーシャルでたくさん売ることに成功していますが、そういう戦略でユーザーがあと何年買ってくれるか?と考えると、2020年以降は怪しいと思いませんか?
時代は変わるじゃないですか?
言葉でハードルを越えられる時代も、いつかは終わるんですよ。
その前には、消費は正義の時代が終わったんですよね。
では、言葉の時代が終わるとき、ナノテクノロジーのシーズは時代を担えるものになっているのでしょうか?
楽しみなところですね。
- nano techは産業界の最前線を観られるナイスな展示会です。
- ナノファイバーの実用化が加速しそう。
- ユーザーの欲しい!と思わせられるようなひらめきが必要。
ご覧いただき、ありがとうございました!